縮小社会 第7号 入澤仁美医学博士追悼記念号

(巻頭言)入澤仁美さんの活躍を期待していた

松久 寛
(縮小社会研究会代表理事)

入澤仁美さんとは栗屋剛先生が主宰されている生命倫理の研究会を通じて知り合った。当研究会にはないキャラクターで、彼女の明るく積極的な姿勢に圧倒された。さらに、ベリーダンスで患者を前向きにさせるというのは、私の思考方法にはなく、別世界の人間のように思えた。当会では生物多様性分科会で活躍され、主に生殖医療に関する研究紹介をされた。さらに、同分科会の冊子の発刊においては、編集など何から何までやっていただいた。それも、自ら引き受け、たいそうがらずに淡々とこなされた。当会会員は高齢の男性が多い。よって、議論も社会の在り方など、大上段に構えるものが多い。2008年に当会を設立してから 14 年経過したが、多くのメンバーはそのままである。新陳代謝が必要であるとは自覚しているが、なかなかそれが実現できていない。このまま、縮小して自然消滅するのではないかと危惧している。そのようななかで、若い人が身の回りの課題から社会を見る姿は新鮮であった。彼女は数人の知人を誘ってくれたが、残念ながら定着はしなかった。それは、当会の活動が若い人には魅力がないのであろうと反省している。

当会の2008年の設立時は主として化石燃料の枯渇をテーマとしていた。しかし、環境の方が喫緊の課題となってきた。また、これから気候変動などによる凶作で食料問題も発生するであろう。さらに、ウクライナ問題で分かるように、戦争によってエネルギーや食糧の供給が不足することもある。これらの問題を科学技術の進歩で解決できるという人もいるが、できることとできないことがある。多くは絵にかいた餅である。基本的には、消費を縮小するしかない。大半の物は化石燃料を使って製造と輸送をされている。工業製品はもちろんのこと、米でさえ、化学肥料、農薬、農業機械など化石燃料に依存している。化石燃料は炭素と水素からできており、それを燃やすと二酸化炭素と水になる。その二酸化炭素の半分は大気中に留まり温暖化の原因となる。また、化石燃料の枯渇が問題である。石油メジャーの BP(British Petroleum)のレポートによると、化石燃料(ウランを含む)の可採年数は 79 年である。新しい油田や採掘法が発見されるであろうが、それらは採掘コストの高いものである。それ以上に発展途上国の需要は増大するので、枯渇が早まり直段が高くなる。そうなると、国家間および国民間で競争が激しくなり、椅子取りゲームのように、弱者が次々と破滅していく。そして、現代文明の崩壊にいたる。これを防ぐには、いかに早くかつスムーズに消費を縮小するかである。さもないと、化石燃料の争奪戦はもとより環境の悪化や資源枯渇は加速度的に進展し、崩壊に至るであろう。国連では SDGs を推進しているが、先進国は現在の便利のいい生活を捨てる気はないし、発展途上国はさらなる経済発展を目指しているので、なかなか難しい。

世界においては、環境問題で多くの若い人たちが立ち上がっている。日本でも、まだ少数であるが、若い人たちが声を上げている。環境を守るというのは、化石燃料の使用の縮小にたどり着く。若い人にとっては、子供のときから「使い捨て」「冷暖房完備」の生活があり、つい少し前の「もったいない」「丈夫で長持ち」を想像するのは難しいであろう。当会のミッションは、次世代に資源や環境を残すことである。それは苦難ではなく、創造的な楽しさであることを示さねばならない。そこでは、生物の多様性を守ることもひとつの命題である。さらに、人間の多様性も必要であり、それを守ることは人権を守ることにつながる。とくに、この分野での入澤さんの活躍を期待していた。本当に残念である。

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